『かもめ食堂』に触れる旅

7月のフィンランドは、午前0時近くまで明るく、ヘルシンキの小さな繁華街は人で溢れていました。どこにこれだけの人が隠れていたのか?と思うほどです。今回は、そんな夏のヘルシンキを舞台にした日本映画 『かもめ食堂』 のロケ地を巡りました♪

ヘルシンキで生まれ育った日本人の知人が、この『かもめ食堂』は、日本人とフィンランド人の気質を良く表していると語っていました。はたして、『かもめ食堂』に描写される日本人らしさとは?そして、フィンランド人の気質とは?
ヘルシンキの美しい景色を眺めながら、『かもめ食堂』のファンタジーワールドに浸ります。

1.【あらすじ】

フィンランドのヘルシンキで、サチエは小さな店 『かもめ食堂』を営んでいる。この食堂のメインメニューはおにぎり。日本人のソウルフードだからだとサチエは自信を持っているが、お客が来る気配はない。ある日初めてのお客がやって来た。日本かぶれのフィンランド人青年だ。彼に『ガッチャマンの歌詞』を全部教えて欲しいと言われるが、サチエはどうしても思い出せずに悶々としていた。書店に立ち寄ると、店内のカフェに日本人女性ミドリを見かける。思い切って『ガッチャマンの歌詞』を教えて欲しいと話しかける。驚くべきことに、ミドリはガッチャマンの歌詞を全て覚えていた。この出会いがきっかけになり、サチエはミドリを家に招き、やがてミドリはサチエの店を手伝うようになる。

(c)かもめ商会 photo:高橋ヨーコ
一方、両親の看護を終え、フィンランドに癒しと、自分が満たされる何かを求めてやってきたマサコは、ロストラゲッジに合う。航空会社に問い合わせをするが3日経ってもいっこうにマサコの荷物は出てこない。街を歩いていて偶然、『かもめ食堂』を見つけ、サチエやミドリと知り合う。奇妙なめぐり合わせで知り合った3人トリオが織り成す普通の日常生活は、ゆっくりと、ほんの少しずつ好転していく。
2.【土屋的作品解説】

この映画を例えるなら、『真冬の日光浴』のような、『都会の喧騒から離れた森林浴』のような心地よさと癒しを感じずにはいられません。随所にファンタジー性を帯びていて、大きな事件が起こるわけでもないのに、忘れることが出来ない作品。都会のあくせくした窮屈な日常から抜け出して、この作品に触れるなら、それはマイナスイオンたっぷりのヒーリングムービーになること間違いなし。
監督は、2003年に長編デビュー作『バーバー吉野』がベルリン国際映画祭で児童映画部門特別賞に輝いた荻上直子。また、『ヤマダ一家の辛抱』などで人気の作家、群ようこが、本作のためにオリジナル・ストーリーを書き下ろしました。女性ならではの感性が凝縮した、母性に包まれるような、柔らかなぬくもりを感じる作品です。
3.【映画の舞台を訪ねて】
『フィンランドのかもめはデカイ』
映画の冒頭は、このサチエのナレーションで始まります。
キーキー、ミィーミィー、というカモメの泣き声と共に、まるまる太ったカモメが映し出されます。サチエは太った生き物が好きであり、子供の頃に飼っていた太った三毛猫のナナオをとても可愛がっていました。死んだときは辛かったという思い出話を語ります。しかし、“痩せっぽっちだった母親”が交通事故で亡くなった時にはナナオが死んだ時よりも涙が出なかったというエピソードからは、彼女のどこか悲しい、屈折した幼少期を垣間見ることが出来ます。

この作品には主人公たちがどんな人生を歩んできたのか、ヘルシンキにたどり着くまでの彼らの過去をほとんど知ることが出来ません。ほんの一部の会話を通してのみ、彼女たちの価値観や人生に触れることが出来るという稀有なストーリー展開です。
登場人物の生い立ち・人生について、劇中で説明されているのは、以下の通り。
サチエ:
早くに母を交通事故で亡くし、家事全般を彼女が担当してきた。1年に2回だけ(遠足・運動会)は、父がおにぎりを作ってくれた。
形は歪だが、梅・鮭・オカカの3種類。美味しいおにぎりだった。彼女の店のメインメニューがおにぎりの由来はここから来ている。
ミドリ:
目をつぶって世界地図を指したら、フィンランドだった。『来てやらないわけにはいかなかった』というミドリの言葉から、私は、恋に破れた『センチメンタルジャーニー』なのではないかと感じたが、そのあたりも明らかにはなっていない。
マサコ:
長年、両親の看病をしてきた。両親が立て続けになくなり、自分の任務を果たした開放感と同時に、どこか虚無感、空虚感のようなものを併せ持っている。
■(1)かもめ食堂
まずは、映画のメインロケ地へ。
劇中でサチエの経営する『かもめ食堂』へ行ってきました。ヘルシンキ中心部から南にあります。

実際は、Kahvila Suomi(カハヴィラ・スオミ)というフィンランド料理を提供するカフェレストランです。でも、映画の店名がそのまま残っていました。

店内の内装は、綺麗に塗り替えられ、ブルーの色合いが鮮やかでした。キッチンの位置も違います。映画では入り口正面にありましたが、実際は左側にありました。

メニューボードはフィンランド語で書いてありますが、日本語のメニューもあるそうですよ。店員さんは英語が通じます。

レジでは笑顔の可愛いおばちゃまが愛想良く対応してくれました。『写真を撮ってもいいかしら?』と聞くと、この満面の笑みです。

日本人観光客が多いから、慣れているのでしょうが、サービス業の鏡ですね!
映画にも登場した“シナモンロール”(Pulla・プッラ €3) を注文しました。焼きたてとまではいかなかったものの、なかなかの味。

夕方16時くらいに訪れたのですが、早めの夕食をとっているのか、遅めのランチなのか?意外にもお客さんはカフェではなく、お食事をしていました。このお店の一番人気は、『ミートボールのマッシュポテト添え』(€10.5)だそうです。
映画では、カップやお皿などは、フィンランドブランドのイッタラ社の食器で統一されていましたが、実際には、もっと簡素です。また、アアルトデザインのイスやテーブルも映画の中だけでした。
■(2)エスプラナーディ通り
ヘルシンキ随一のショッピングストリートといえば、このエスプラナーディ通り。この通りはエスプラナーディ公園の両側にあります。

また、サチエが『誰だ、誰だ、誰だ~』となかなか思い出せない“ガッチャマン”の歌を口ずさみながら歩いていた場所でもあります。

とにかく人通りが多く、賑やか。ブランド店が立ち並ぶエリアなので、お洒落なヘルシンキっ子を沢山見かけます。
■(3)アカデミア書店&カフェ・アアルト
こちらの書店は、映画の冒頭で、サチエとミドリが出会う場面に登場する場所です。

“ガッチャマン”の歌詞をどうしても思い出せないサチエが、書店内の2階にあるカフェで本を読んでいるミドリに思い切って声をかけるシーン。

建物内は、アアルトがデザインしたもので、吹き抜けになっていて明るい印象を受けます。
■(4)カフェ・ウルスラ
この『カフェ・ウルスラ』は、映画の後半に登場。
ヘルシンキの南、カイヴォプイスト公園の側にあり、目の前には海が広がる絶好のロケーションです。


サチエ、ミドリ、マサコ、そしてフィンランド人女性リーサが4人揃って訪れ、ビールを飲みながら、海を眺めてたそがれているシーンは印象的。

このカフェにいるだけで、とても開放的な気分になります。
リーサがサチエに向かって、『あなたを見ていると昔飼っていた犬を思い出す』という話をします。この景色を見ていたリーサは、自然に心がほどけていき、そんな心の声をつぶやいたのかもしれませんね。

4.【周辺情報】
■(1)フィンランド人の気質・フィンランド人らしさとは?
フィンランド人は、一般的に『内向的』、『寡黙』、『シャイ』と言われます。また、フィンランド人の国民性をよく表すと言われている『Sisu(シス)』という言葉があります。
Sisu = 粘り強さ、妥協しない精神力
これは、フィンランドの歴史をみるとうなずけるはず。
スウェーデンに約650年、ロシアに約100年もの間支配され、独立まで辛酸をなめてきたフィンランド。長い不遇な時代を乗り越えてきたフィンランド人は、打たれ強く不屈の精神を持っている国民であることを証明しています。

映画に登場するフィンランド人も、それらの特徴が顕著に表れています。
たとえば、頻繁にサチエの店の前を通りかかるおばさんトリオ。最初はコソコソ、サチエの店前で彼女の噂をしながら様子を伺っています。サチエがペコリとお辞儀をすると、3人は慌ててお店の前から立ち去ります。
しかし、次第にサチエに好感を持つようになり、最終的にはシナモンロールの匂いに誘われて店内にやってくるのです。シャイなフィンランド人の典型に見えました。
日本かぶれの青年も、実に内向的です。友人がいないということが、ストーリーを追うごとに分かってくるのですが・・・。
そして、リーサ。打たれ強いと言えるかは分かりませんが、夫が家を出て行き、その理由すら分からず悲しみを抱えて必死に耐えていました。
最後に、以前カフェを経営していたという男性も、家族がバラバラになり、辛い日々を過ごしている寡黙な男として登場します。
■(2)『かもめ食堂』における“日本人らしさ”の描写とは?
私がもっとも“日本人らしさ”を感じたシーンは、ミドリがヘルシンキに来た本当の理由を、サチエは何も聞かずにいたところです。
ミドリが涙ながらに『どうしても、来てやらないわけにはいかなかった』と語るシーンで、黙ってティッシュを渡し、『どうしてもの時はどうしてもです』とだけ言います。そして温かい眼差しをミドリに注ぎ、何かを理解したサチエ。サチエの気遣いと慎ましやかな物腰は、日本人の奥床しさや情緒すら感じます。
相手の心を無理にこじ開けようとはせずに、他人を尊重し、一歩引いて付き合うことが出来る。ただしそれは冷たいわけでも、無関心なわけでもなく、相手を思いやればこそ。日本人の美徳です。
■(3)映画に登場するフィンランドブランドに注目!
この映画には、今人気沸騰中のフィンランドブランドがたくさん登場しています。
◇Marimekko (マリメッコ)
ロストラゲッジに合ったマサコが洋服を買いに来た場所が、北側のポポヨイスエスプラナーディ通り沿いにあるマリメッコというお店。

フィンランドのテキスタイルと服飾のブランドで、日本でもおなじみ。

私もサマーワンピースコートを購入しました。

◇iittala (イッタラ)
こちらは日本でも大人気。『かもめ食堂』では、全てイッタラ製品が使われています。

日本で買うより、なんと30~40%も安いといいます。
ちなみに、サチエの家でごはんを炊いていたのもイッタラのお鍋。ヨーロッパの炊飯器だとご飯が美味しく炊けませんからね。

イッタラのコーヒー&ソーサーを自分用に購入しました。
◇Aarikka (アーリッカ)
フィンランドデザインの重鎮。

アクセサリーから木製の人形やキッチングッズなど、400以上のアイテムがあるそう。

このお店は、『かもめ食堂』には関係ないのですが・・・(笑)ピアスを購入したので、ついでに載せちゃいました。 あしからず・・・

さて、またまた長々と綴ってきた『映画と旅するヨーロッパ』。いかがでしたか?
今回はヘルシンキから、“『かもめ食堂』に触れる旅”をお届けしました♪
ここまでお付き合いいただいた皆様、ありがとうございました。では、また!








こんにちは!ドイツの夏をエンジョイしていますか?
フィンランドには行ったことないし、かもめ食堂もまだ見ていないのですが、春乃さんの解説を読んだらぜひ見てみたくなりました!それも自分で撮った現地の写真やガイド付きでヘルシンキの素敵な様子がよーくわかりました。お買い物も上手ですね。
では、引き続き、ドイツの短い夏をお互い楽しみましょう。
投稿: ラケル | 2010年7月22日 (木) 21:58
ラケルさん
いつもコメントありがとうございます♪
ヘルシンキについてはオフィシャルホームページのブログにも少し観光記事を書いてありますので、もし良ければご覧下さいね!
http://harunous.com/blog/archives/2010/07/post-1265.php
ベルリンはこのところ急に気温が下がりました・・・まさか、これで夏が終わり???と案じています(><)
では、また遊びにいらしてください☆
投稿: 晴乃 | 2010年7月27日 (火) 04:04