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2008年5月30日 (金)

『美しすぎる母』監督:トム・ケイリン インタビュー

様々な“タブー”を描いているのは意図的です

出席者:トム・ケイリン

『美しすぎる母』監督:トム・ケイリン インタビュー

実際に起こった息子による母親殺害事件を基に執筆された原作「SAVAGE GRACE(直訳「野蛮な優美さ」)」を映画化した本作。主演に演技派ジュリアン・ムーアを迎え、美貌とカリスマ性で人々を惹きつけたと女性がアメリカの大富豪ベークランド家に嫁いだ1940年代から1972年にロンドンで殺害されるまでを描く。2007年のカンヌ国際映画祭監督週間に正式出品された衝撃作『美しすぎる母』

今回はタブーの愛を映画化した『恍惚』で監督デビューをし、本作の監督でもあるトム・ケイリンにお話を伺った。

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映画化にいたるまでの経緯と、ここだけは忠実に再現したいと思われた所があったら教えてください。

■トム・ケイリン(以下、トム):「原作を読んで、それがすごく美しく、そして悲しい印象を受けました。フィクションではなく事件簿のような形で書かれているので、様々な心象風景が見て取れました。実際の殺人事件も凄いのですが、原作のおもしろいと思った点は、取材だったり、手紙、書簡といったものを多用していて、それぞれの関わった人達の視点で書かれているところです。
それを映画化する際に何よりも大切にした事が「心の動き」です。エモーショナルな部分は決して歪めず、真実のあるがままを描くというところは忠実に再現しました」

『美しすぎる母』監督:トム・ケイリン インタビュー

では脚色するにあたり気をつけた点はありますか?

■トム:「もちろん物理的に変えた部分もあります。今回撮影はすべてスペインで行いました。しかもスペインの出資があったのでスペインのキャストだったりスタッフだったりを使わなければなりませんでした。
例えば、劇中にスペイン人の夫婦が出てきますけれど、原作ではイギリスの方です。また、アントニーのボーイフレンドのジェイクも原作ではイギリス人の男の子でしたし、不倫相手のブランカもフランス人の女性でした。でも映画ではすべてスペイン人に変えています。ただそれは設定が変わっただけであって人間関係は一切変えていません。

また、この映画は1946年から72年までの26年間という長い時間を描くということで、クリエイティブな面では大きな挑戦でした。私にとってエキサイティングなことでもあり怖い事でもありました。
というのは時間の制約があったのはもちろんのこと、この映画には4ヶ所の舞台(ニューヨーク・ロンドン・パリ・スペイン)が出てきますが、それを全編バルセロナで撮影しなければならず、いかにそれぞれの舞台だと観客が思えるか? というところが大変でした。でも実際に映画を観たアメリカ人の方から「ニューヨークのあの通りが良かったね、どの通りで撮影したの?」「ロンドンのあのシーンが良かったけどあれはどこで?」と聞かれ「いやあれはバルセロナなんです。」と(笑)。皆さんそれぞれの場所だと信じてくれて良かったですし、そういった実際にあるロケーションの違う所にフィクションとして描くという事が面白かったです」


出演者の方々も原作本を読まれたのでしょうか?

■トム:「脚本とは別に原作を渡しました。読んでも、読まなくても良いよと言ったのですが、二人とも読んでいて「何か他にもあったらください」と言うので、それ以外に写真や書簡、日記、アントニーの書いていた詩など、見つかるだけ渡しました。
また私とは関係のないところで各自、バーバラやアントニーを知っている人に会って話を聞いていたりしていて、それを私に話してくれたりもしました」


監督から出演者の方々に演技指導などされましたか?

■トム:「ジュリアンですが、彼女はもう25年くらい俳優業をやっていますし多様な役を演じてきているので経験豊富です。ただ彼女は凄く本能的な俳優で頭で考えて演じるタイプではないので、事前に監督としてこの作品をどういう風に捉えているか、主題をどういう風に思っているのかなどストーリーやキャラクターについて話しました。後は彼女が好きに色々出来る、遊べる場を作ってあげることが監督としての仕事だと思いました。彼女は色々なテイクで違うアプローチを見せてくれたりしましたね」


アントニー役のエディ・レッドメインはいかがでしたか?

■トム:「ジュリアンとは反対に、シーンごとに演出等に関して言葉を求めるタイプでした。私は俳優に対して演技のアドバイスをする時には“何を今しているのか”という凄くシンプルな言い方をするようにしています。エディに対しても「今、君は“こういう事をしている”」という言い方をしてアドバイスをしていました。
それを意識することによって初めて脚本にはない映像ならではの「間」が生まれてくるのだと思います」


では映画の内容についてお伺いいたします。この映画は殺人だったり同性愛だったり、様々な“タブー”を描かれていて、特にタバコを吸うシーンが多いなという印象を受けました。
今では風潮的にタバコを吸うシーンというのはあまり良しとされていないし、映画でもカットされる事が多いのに、本作ではそういったシーンが多かったのは何か意図があったのでしょうか。

■トム:「意図的です(笑)。私も4ヶ月位前まで1日2箱のヘビースモーカーでした。今は止めましたが。そういうこともあっての事かもしれませんが、ただ、タバコに関しては時代を誠実に描いた結果でもあります。実際、参考にしていた彼らの40枚ほどある写真の中で、半分以上の写真に誰かしらがタバコを吸っている姿が写っていました。当時ではそういった姿が普通に見受けられるという事で、それをそのまま忠実に描いた結果そういったシーンが多いということに繋がったのでしょう。でもそういったシーンを多く入れたことに後悔はしていません。

ただ、1シーンだけ脚本にはあって実際の撮影では使用しなかったシーンがあります。それはバーバラが登場して最初のほうに赤ちゃん(アントニー)を抱きながらタバコを吸っているというシーンで、赤ちゃんの近くで母親がタバコを吸うという姿は現代の観客は絶対に許してくれないだろうと思って最終的に撮るのをやめました。
1946年当時そういう事は間違いなく行われていましたが、映画の作り手としてはバーバラが登場してすぐのシーンでそういったシーンを入れてしまうと、いくら優しく赤ちゃんと接していても観客はタバコの方しか覚えていないと思ったのです」


では最後に監督はこの映画にどのようなメッセージを込めたのでしょうか?

■トム:「家族の中における愛の限界。愛の持っている責任。また、それが間違った方向に行ってしまった場合どんな破滅が待っているのか。そういった部分ですね」

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『美しすぎる母』
配給: アスミック・エース エンタテインメント
公開: 2008年6月7日 (土)
劇場: Bunkamura ル・シネマほか全国にて順次公開
公式HP: http://utsukushisugiru.com/


あらすじ
貧しい家庭で育ちながらも、その美貌で大富豪ブルックスと結婚したバーバラ。彼女は待望の息子、トニーを授かり、幸せの絶頂にいた。だが、その幸せは長くは続かなかった。数年後、ブルックスが家族を捨て家を出ると、残された彼女はトニーへ偏った愛情を示していく…。ニューヨーク、パリ、カダケス、マジョルカ島、そしてロンドン。優雅に国々を彷徨い続けた二人の裏側にある、隠された“野蛮な関係”とは?そして、なぜトニーは彼女を殺したのか?

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